読みもの
2023.03.17
音楽ホール 最新事情2023~ミューザ川崎シンフォニーホール

ミューザ川崎シンフォニーホール~極上の音響と、「駅前ホール」の親しみやすさが同居

ミューザ川崎シンフォニーホールは、川崎を音楽の街に変えたホール。螺旋状の客席や舞台との距離の近さ、極上の音響が、訪れた人をワクワクさせてくれます。ふらりと訪れてレベルの高い演奏会がたくさんあるこのホールの今シーズンは? 目玉公演や名物のフェスタサマーミューザについて、事業部長の山本浩さんに伺いました。

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

ミューザ川崎シンフォニーホールの内観©青柳聡

この記事をシェアする
Twiter
Facebook
続きを読む
お話を伺ったミューザ川崎シンフォニーホール事業部長の山本浩さん

「音楽で街を活性化しよう」が出発点

ミューザ川崎シンフォニーホールは、川崎を変えたホールだ。ホールのある川崎駅西口は、「音楽のまち かわさき」をキャッチフレーズに2004年に誕生したホールをきっかけに、洒落たショッピングセンターが並ぶおしゃれな街に生まれ変わった。一方、ホールの空間に一歩入ればそこは極上の音響を誇る別世界。舞台と客席が近いのもワクワクさせてくれる。

山本「『音楽で街を活性化しよう』という考えで、地域とのつながりも視野に入れてホールができ、まちづくりが進みました。普通、商業施設は競合しあうものですが、ホールがあることでクッションになり、人の流れができています。駅が近いのも強みですね」

ミューザ川崎シンフォニーホールでコンサートを聴いた後、街を回遊して帰る楽しみも

指揮者サイモン・ラトルも驚く音響のすばらしさ

1997席のホールはワインヤード型。客席が螺旋状に舞台を取り囲む。「音響」はミューザのこだわりだ。

山本「豪華なシャンデリアはありませんが、その代わり音響にはこだわりました。設計に際して重視したのはクリアさと透明感です。どんな小さな音でも、手に取るように聞こえます。

有名な指揮者のサイモン・ラトルが、古典派の小さめな編成でも巨大な編成でも音響が変わらないことに驚いていらっしゃいました。お客さんの数で音響が左右されないのも強みです。満席になってもならなくても、音響がデッドになることはありません。

よく、ホールは1階席が良いとか2階席が良いとか言いますが、そういう基準はミューザには当てはまらないと思います。ぜひ、ご自分のお気に入りの席を見つけていただきたいです」

客席からステージが近いのも、ワクワク感をかき立ててくれる。

山本「アーティストの方も、ステージからお客様が見えて気持ちがいいとおっしゃいます」

ふらりと訪ねてレベルの高い演奏会がたくさんあるホール

主催公演のラインナップは、海外の一流オーケストラから、川崎市のフランチャイズオーケストラである東京交響楽団(以下東響)が出演する「名曲全集」「モーツァルト・マチネ」、ワンコインで楽しめる「ランチタイムコンサート」、ミューザが誇る大オルガンを生かした「オルガンコンサート」、そしてジャズまで多彩だ。

「モーツァルト・マチネ」の舞台から©N.Ikegami

山本「『いろいろな音楽があっていい』という考え方が基本です。コンサート専用のホールでオーケストラ公演が多いですが、ジャンルにこだわらず、極力PAを使わない生の音響を活かせる音楽ならラインナップに入れています。『スペシャルナイトコンサート』はジャズですし、ア・カペラの団体も招聘します。『ランチタイムコンサート』はふらりと来ていただきたいですね。レベルの高い演奏会がたくさんあることが大事です。

季節にもこだわっています。本格的なクラシック音楽シーズンである秋には海外のオーケストラを招聘し、世界最高峰のものを聴きたいというニーズにも応えています。今年は内田光子さんが弾き振りをする『マーラー・チェンバー・オーケストラ』(10/31)『ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団』(11/3)『ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団』(11/21)の3団体を招聘します。今シーズンの目玉の一つですね。『友の会』のメンバー限定で、セット券も販売しました。セット券が出せるのはホールの強みです(3/13で販売終了)」。

昨年の《サロメ》に続き、今年は《エレクトラ》がシーズン最大の目玉公演

フランチャイズ・オーケストラである東響の存在も大きい。

山本「オーケストラにとっては、ホールの中でオーケストラの音づくりができます。ウィンウィンの関係ですね」。

最近大評判になった東響のコンサートが、昨秋、演奏会形式で行なわれたリヒャルト・シュトラウスのオペラ《サロメ》の公演。東響音楽監督のジョナサン・ノットの肝煎りで世界的な歌手を招き、大成功を収めた。今年の5月には同じリヒャルト・シュトラウスのオペラ《エレクトラ》(5/12)が上演される。シーズン最大の目玉公演だ。

山本「リヒャルト・シュトラウスのオペラを上演しようと言ったのはノットさんです。歌手もノットさんが声をかけて集めました。マエストロから声がかかるということで、歌手も力の入り方が違います。《エレクトラ》ではこの役を得意にしているクリスティーン・ガーキーさんが主役を歌います」 

昨秋、演奏会形式で上演されたリヒャルト・シュトラウスのオペラ《サロメ》は、大きな話題となった©N.Ikegami

今年の「フェスタサマーミューザ」は「原点回帰」がテーマ

ミューザの顔と言える人気企画が「フェスタサマーミューザKAWASAKI」。東響をはじめ首都圏を中心とした日本のオーケストラが集結する、オーケストラのお祭りだ。いろいろなオーケストラが日替わりで登場し、初心者から大のクラシックファンまですべての層が楽しめる。

山本「今年は『原点回帰』がテーマになりそうです。各オーケストラが、メジャーな曲で直球勝負をかけてくる感じでしょうか。2019年から始まった首都圏以外のオーケストラの招聘も、全国から2団体が参加します」(3/28ラインナップ発表)

 

オーケストラの甲子園ともいわれる毎年夏のお祭り企画「フェスタサマーミューザKAWASAKI」

初心者の方へのホールからのおすすめは、東京芸術劇場と共催する毎年秋の「音楽大学オーケストラフェスティバル」(11~12月)と、各大学の選抜メンバーによる「フェスティバル・オーケストラ」(3月下旬)だという。

山本「9つの音楽大学が参加するのですが、みんな気合が入っていい意味での緊張感があり、指揮者も素晴らしい方たちが来るので、オーケストラのサウンドをこのホールの響きで堪能できます。千円で楽しめるから、おすすめです。さらに3月の合同オケは、音大生のオールスターコンサートです!」

年齢が一桁の時からクラシック音楽に接してほしい

地域とのつながりは、いつもミューザのメインテーマの一つである。

山本「開館記念日の7月1日を毎年『ミューザの日』として、ウェルカムコンサートや周辺商業施設によるさまざまなイヴェントを行なっていますが、これは地域とのつながりと、『フェスタサマーミューザ』のパートナーシップ企画につながっています。

「ミューザの日」には、小学生のジュニア・プロデューサーが企画するコンサートも開かれる

ゴールデンウィークには『こどもフェスタ』を開催して、ワークショップから楽器体験まで多彩なイベントを用意しています」

年齢が一桁の時から、クラシック音楽のコンサートに接してほしいという山本さん。そんなスタッフの想いを反映し、ミューザ川崎には「U25」といった若い層への割引制度もたくさんある。

「駅前ホール」のミューザは、とても親しみやすくて、上質なコンサートホール。街を訪れるように訪れて、良い音楽に気軽に接してほしい。

ミューザ川崎シンフォニーホール 

[運営]川崎市文化財団グループ

[座席数]音楽ホール:1997席、市民交流室:150席(可動式)

[オープン]2004年

[住所]神奈川県川崎市幸区大宮町1310

[問い合わせ]Tel.044-520-0200(チケットセンター)

https://www.kawasaki-sym-hall.jp/

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ