「ピアノ三重奏のためのアレグレット 変ロ長調(第8番)」——ピアノが好きな少女へのエールを込めた作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ピアノが好きな少女へのエールを込めた作品「ピアノ三重奏のためのアレグレット 変ロ長調(第8番)」
この春は、完成間近の交響曲第7番の最終段階と交響曲第8番の作曲を同時進行させていたので、時間はいくらあっても足りなかった。しかし、その一方では依頼されたわけでもないピアノ三重奏用の小品を作曲しており、その自筆譜表紙には「ウィーン、1812年6月26日、僕の小さなガールフレンド、マクセ・ブレンターノの、クラヴィーア演奏を励ますために。L.v.Bthvn」と記されている。このマクセとはフランツとアントーニエ・ブレンターノの9歳になる次女マキシミリアーネ(1802〜61)、後年ピアノ・ソナタ作品109も献呈することになるピアノ好きの少女のことだ。この単一楽章のピアノ三重奏曲WoO39はいかにもピアノ初学習者用の易しい作品であるが、「変ロ長調」に対して中間部に「ニ長調」を置くという、ベートーヴェンの長3度関係調への転調の好例として見逃すことができない。この数日後、ベートーヴェンは前年と同じようにテープリッツに出かけている。
テープリッツの途次プラハに立ち寄ったベートーヴェンは7月2日に旧友ファルンハーゲンと会い、明晩の食事を約束してそれぞれの宿に戻った。ところが3日の夕方、ベートーヴェンは約束の場所に現れなかったと後にファルンハーゲンは語っている。実は、この3日にフランツとアントーニエ一家がカールスバート(現チェコのカルロヴィバリ)への家族旅行の中継地としてプラハに一晩投宿していたのである。ウィーンを出発する数日前に、「可愛い恋人マクセ」に自筆譜をプレゼントしたベートーヴェンがブレンターノ一家のカールスバート旅行のことを知っていたとしてもおかしくない。ファルンハーゲンとの約束場所に現れなかったことと考えあわせると、夕食時間にはブレンターノ家の人たちと一緒にいたのかもしれない。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)128-129ページより
ベートーヴェンはこの時期に交響曲を2つ抱えていたにもかかわらず、別の小品も書き上げていました。作曲した数日後にはマクセの家族と一緒に過ごしていたようなので、その時に作品を渡したのでしょうか。
穏やかで愛らしいピアノパートに注目してみてくださいね。
「ピアノ三重奏のためのアレグレット 変ロ長調(第8番)」WoO39
作曲年代:1812年6月26日(ベートーヴェン41歳)
初演:1830年12月
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