『それでも、生きてゆく』〜ラフマニノフとショパンが二面性を、辻井伸行が希望を表現
お茶の間を楽しませてくれるドラマ番組。実は、大きくストーリーが動くような印象的なシーンにクラシック音楽が流れ、演出に深みを出していることが多くあります。よりドラマチックな展開に引き込んでいくクラシック音楽を紹介します。
第2回は、少年犯罪の被害者と加害者、双方の家族の悲しみと希望を描いた『それでも、生きてゆく』。作品のテーマや登場人物の心情とマッチするピアノ作品について。
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
ある悲しい少年犯罪。本来出会うはずのない被害者の兄と加害者の妹が、出会ってしまう。事件から15年経っても時が止まったままの2つの家族が、時計の針を動かし始め、新たな葛藤と対峙していく——。
ドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系、2011年放送)は、14歳の少年がたった7歳の少女を殺めてしまう、という悲痛な事件を軸に物語が展開する。娘を失った悲しみに耐えきれず加害者家族に嫌がらせをしてきた、被害者の母の狂気。息子を捨てて今の生活を守ろうともがく加害者家族。それぞれの苦しみが痛いほどに伝わる。
その一方で、15年経ち、被害者の兄・深見洋貴(演:永山瑛太)と加害者の妹・遠山双葉(演:満島ひかり)が出会い、互いの人間性の奥底に触れ合うことで、糸を紡ぐように止まった時間を動かしていく。わかり合えないはずの2人が丁寧に会話を重ねる時間に、思わず視聴者としてホッとしてしまう。同じ世界線を生きていながらも、ともに生きていくことはできない切なさも滲み出るラストが印象的だ。
物語には、どこかもの寂しい淡いオーラが常に漂う。それを醸し出す一助を担うのは、サウンドトラックの多くに登場するピアノの音色だ。演奏は辻井伸行さん。
中でも作中に多く使用されていたのが、クラシック音楽ではラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」第2楽章、ショパンの前奏曲第15番《雨だれ》。
この2つの音楽に共通するのは、作品の持つ二面性だ。
「ピアノ協奏曲第2番」第2楽章は、第1楽章と同じハ短調で始まる。冒頭はドラマの雰囲気にあった悲愴感を予感させるが、すぐにホ長調となり、ノスタルジックにピアノが奏でる。そこからは甘美でロマンティックな音楽が続くが、やはりどこか哀感が漂う。
《雨だれ》では、2つの雨が聴こえる。純真で清らかな雨と、死の淵をさまようような重い雨。
『それでも、生きてゆく』の中でも、さまざまな二面性を捉えることができる。ひたむきに生きる人々と、心の影から罪を犯さざるを得ない人。家族や大切な人を想う愛と、それゆえの葛藤。何気ない会話と、そこに垣間見える絶望。
異なるものを映し出す際に、クラシック音楽はとても効果的な力を発揮する。
とはいえ対照的な事柄をつなぐのは、一貫したテーマだ。その橋渡しを担うのもまた音楽である。
辻井伸行さんオリジナルの《それでも、生きてゆく》や《花水木の咲く頃》が、登場人物が見出していく「希望」を表しているようだ。懸命に生きる登場人物たちが「それでも、生きてゆく」と重く決意をする未来を予期するかのように。
放映年:2011年
制作:フジテレビドラマ制作センター
制作著作:フジテレビ
脚本:坂元裕二
音楽:辻井伸行
出演:永山瑛太/満島ひかり/風間俊介/田中圭/佐藤江梨子/福田麻由子/村上絵梨/倉科カナ/安藤サクラ/柄本明/段田安則/小野武彦/風吹ジュン/時任三郎/大竹しのぶ ほか
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