
ドゥダメルが東海岸で存在感を増す ニューヨーク・フィルのシェフ就任に向けた快進撃

アメリカ・ニューヨークの3月の音楽シーンから、コンサートのレポートとニュースをお届けします。

ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆、日本の戯曲の英訳も手掛け...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
今秋グスターボ・ドゥダメルが音楽監督に就任するニューヨーク・フィルハーモニックは、カーネギーホールでドゥダメルが指揮するオペラ全曲演奏のシリーズ化をふくむ、来シーズンの意欲的なプログラムを発表した。それとともに、デイヴィッド・ゲフィン・ホールでの2週間にわたるドゥダメル指揮のコンサートをほぼソールドアウトにし、存在感を示した。
1月には、約6,000席を擁するラジオ・シティ・ミュージック・ホールで、同フィル史上初となった演奏会を開催して大きな注目を集めており、ニューヨーク・フィルの、そしてロサンゼルスからニューヨークへ拠点を移すドゥダメルの“リブランディング”は着々と進んでいるようだ。
さて、デイヴィッド・ゲフィン・ホールでの最初の週は、ベートーヴェン「交響曲第3番《英雄》」と、フレデリック・ルジェスキ《人民は決して敗れない》のニューヨーク・フィル委嘱によるオーケストラ版世界初演が行われた。ベートーヴェンの《英雄》と、1970年代チリの軍事政権に対する抵抗歌として生まれた《¡El pueblo unido jamás será vencido!》をルジェスキがピアノ変奏曲として再構成した原曲を、18人の作曲家に委嘱してオーケストラ化した作品の初演。この組み合わせは、偶然とはいえ、先行き不透明なワシントンD.C.の状況に対する強烈なメッセージとも感じられた。
ラテンにルーツを持つ人民の歌をドゥダメルが熱く盛り上げることは、ある程度予想できたかもしれない。はたしてタニア・レオンからマリア・シュナイダー、アンドリュー・ノーマン、アルトゥーロ・マルケス、そしてピアニストとしても台頭著しいコンラッド・タオら、現代アメリカ音楽の多様性を体現する作曲家たちによる変奏のキャラクターは、ドゥダメルの明晰な指揮でエネルギッシュに浮かび上がり、その豊かな音響世界が紡ぐ革命的音楽は、現在と鋭く共鳴した。
そしてその興奮をさらに押し上げたのは、前半の《英雄》で聴かせた生き生きとした演奏だったかもしれない。ここでもドゥダメルの明晰なテンポ感が際立ち、ニューヨーク・フィルのメンバーが寄せる期待に支えられたかのような一体感のある演奏。それは、観客の彼に対する期待をさらに高めるに十分なものだった(以上、3月14日所見)。
アダム・スミス『国富論』がオペラに
デイヴィッド・ゲフィン・ホールにおけるニューヨーク・フィルのコンサート第2週では、デイヴィッド・ラング《the wealth of nations》の世界初演が行われた。ニューヨーク・フィルとアスペン音楽祭の共同委嘱による本作は、経済思想の古典であるアダム・スミス『国富論』(The Wealth of Nations)から現代に響くテーマをラングが抽出して再構成し、オーケストラとメゾ・ソプラノ(フルール・バロン)、バス・バリトン(ダヴォン・タインズ)および合唱(ニューヨーク・フィルハーモニック合唱団)のための70分余りの作品としてまとめたもの。『国富論』がアメリカ独立と同じ1776年に出版された象徴的な書物であることを踏まえると、今年建国250周年を迎えるアメリカを見据えた委嘱と位置づけることもできる。
2008年にピューリッツァー賞を受賞し、とくに合唱作品で高い評価を得てきたラングだが、今回はテキストを抽象的に提示するというコンセプトが、声楽パートのインパクトをやや断片的なものにしてしまったかもしれない。それでも弦と打楽器による産業のリズムの象徴化など、「経済思想の音楽化」という試み自体は興味深く、ソリストたちの好演もあって、大きな喝采を浴びていた(3月22日所見)。
日系カナダ人の歴史を扱う作品のアルバムがジュノー賞受賞

ケヴィン・ラウ作曲のバレエ音楽《きみこの真珠》(Kimiko’s Pearl)を収録したアルバムが、カナダ音楽界でもっとも権威あるジュノー賞(Juno Award)の2026年クラシカル・アルバム・オブ・ザ・イヤー(小編成)を受賞した。
本アルバムは、第二次世界大戦中の日系カナダ人強制収容の歴史をふくむ、ある日系カナダ人家族の四世代にわたる旅路を描き、2024年に初演されたバレエ作品の音楽を収めたもの。今回の受賞は、芸術作品としての高い評価に加え、日系カナダ人の歴史を扱う文化的意義が、カナダのグラミーとも称されるジュノー賞で認められたという点でも、大きな意味をもつと言えるだろう。
制作には日系をふくむ多くのアジア系アーティストがかかわり、メトロポリタン歌劇場管弦楽団の専属ハーピストである安楽真理子も、4人編成のアンサンブルの一員として初演から参加している。安楽はジュディ・ローマンのもとで研鑽を積むためにトロント王立音楽院で長く学んだ経験を持っており、カナダとのつながりも深い。3月28日の授賞式には、受賞者の一人として出席した。





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