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2020.09.24
9月の特集「バッハ」

バッハの代表曲10選! 27人の音楽評論家が選ぶ名盤ランキング〜G線上のアリア、無伴奏チェロ組曲、マタイ受難曲など

「音楽の父」と称されるヨハン・ゼバスティアン・バッハ。生涯に作曲した1000曲以上のもの作品のなかから、代表作をセレクト。さらに、名演で聴いてもらうべく、ONTOMO MOOK 「レコード芸術」編『最新版名曲名盤500 ベスト・ディスクはこれだ!』(音楽之友社刊、2017年)で1〜3位に選ばれた名盤を紹介します。バッハを聴きたいけど、どれを聴いたらいい? 音源がたくさんありすぎて選べない! という方は必見です。

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音楽評論家による投票によって選ばれた名盤ベスト3

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685〜1750年)。「音楽の父」や「大バッハ」と称され、音楽の授業でもかなりの存在感を放っていましたよね。生涯で作曲した作品は、なんと1000曲以上!

バッハを聴きたいけれど、何から聴いたらいいのかわからない。音源がたくさんありすぎて、選べない。改めて王道の作品を聴きたいけれど、名盤はどれだろう?

そんなときのために、バッハの名曲を管弦楽曲、ピアノ曲、宗教曲から人気や演奏頻度の高い10曲を厳選して、それぞれの名盤をランキング形式で紹介します!

今回はベスト3+講評を紹介するので、どれを聴けばよいのか迷っている人もきっとヒントが見つかるはず。

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G線上のアリアも収録!

管弦楽組曲BWV1066〜1069

管弦楽組曲は、序曲と大半が数曲の舞曲から構成されています。編成や舞曲の種類は第1番から第4番まで異なり、メヌエットブーレなど、さまざまな舞曲を楽しむことができます。

ドイツの民衆の間で発展してきた舞踏音楽に、フランス宮廷で踊られていた舞曲も取り入れられています。「外面的な虚飾におちいりがちであった宮廷音楽に民衆の旺盛な生活力を与えたもの、素朴な民衆音楽を芸術的な高みにもたらしたもの、それがバッハの《管弦楽組曲》である」と評されています(音楽之友社刊『作曲家別名曲解説ライブラリー バッハ』18ページより)。

一躍有名になった「G線上のアリア」は、第3番の2曲目です!

第1位 リヒター指揮/ミュンヘン・バッハ管弦楽団

第2位 アーノンクール指揮/ウィーンコンチェントゥス・ムジクス

第3位 鈴木雅明指揮/バッハ・コレギウム・ジャパン

審査員の講評

リヒター盤1位、アーノンクール新盤2位、クレンペラー(註:20世紀ドイツを代表する指揮者)とマゼール(註:1930年フランス生まれの指揮者、ヴァイオリニスト、作曲家)以外はすべてピリオド楽器演奏という構図は前回(註:2010年前後)とまったく同じ。鈴木雅明が3位に順位を上げた。強固なリヒター支持、だが普遍と断じるのは早計で、モダン楽器演奏にもリヒターを相対化する録音の登場が必要と感じられるのだ。それはともかく新録音が少ない。フライブルク・バロック管はその中で注目の存在、バランスのよさと鮮度はどんなモダンでも頷くスタンダード足り得るのではないか。圏外だがクイケン新盤もヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(古楽器)の使用はじめユニークな存在。決定盤至上主義に陥るより、ランク・インした多様な録音それぞれの魅力を愉しみたい。私はアーノンクール新盤のずっしりした手ごたえを“再発見”したところ。(音楽評論家 矢澤孝樹)

ブランデンブルク辺境伯に献呈された6つの協奏曲

ブランデンブルク協奏曲BWV1046〜1051

当時のブランデンブルク辺境伯に献呈されたことから《ブランデンブルク協奏曲》と呼ばれるこの作品。ブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒ(1677〜1737年)の御前で演奏後、いくつかの作品をぜひ献呈してほしいとリクエストがあり、2年後に、ケーテンの宮廷楽団のために作曲した作品のなかから6つの協奏曲を選び、浄書して伯に送ったそうです。

献呈した総譜に、明らかに既存の楽譜から機械的に写譜されたと思われる痕跡があること、6曲の様式があまりに異なることから、別々の時期に作曲された作品と考えられています。

1番から6番まですべて長調で作曲されていて、華やかな雰囲気に包まれます。

第1位 リヒター指揮/ミュンヘン・バッハ管弦楽団

第2位 レオンハルト指揮/ブリュッヘン

第3位 S.クイケン指揮/ラ・プティット・バンド

審査員の講評

前回に続きまたもリヒター1位。歴史的転換期のレオンハルト(註:オランダの鍵盤楽器奏者・指揮者・教育者・音楽学者)2位。以下はレーデル(註:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を創設し、ドイツを中心に活躍した指揮者、フルート奏者)とクレンペラー以外はすべてピリオド楽器もしくはモダン止揚形という構図は前回と同じ。だが《管弦楽組曲》より動きが大きい。クイケン新盤が3位。マドゥーフ(註:金管古楽器の名手)の“真生ナチュラル・トランペット”使用など更新された視点が光る。またアバド盤はモダン/ピリオドの融合形態として注目され、圏外のボッセ(註:ドイツの指揮者、ヴァイオリン奏者)&神戸市室内合奏団〔アルトゥス〕ともどもこの種の試みが増える予感も。新録音では他にフライブルク・バロック管、ロッター(註:ドイツの指揮者、ヴァイオリン奏者)がランク・インするなど、国内版・海外版ともに実に豊富で多様な演奏が登場しており、選択に迷う。私はいささか古典盤再評価に傾いたが、感度の高い聴き手なら1、2位の“先”への道が無数に拓けていることを知っているはず。(音楽評論家 矢澤孝樹)

代表作「シャコンヌ」をはじめ、ヴァイオリンの魅力を堪能する

無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータBWV1001〜1006

バッハはもともとチェンバロやオルガンのような鍵盤楽器ばかりでなく、ヴァイオリンの演奏にもすぐれていて、ヴァイマール宮廷に就職した際も、ヴァイオリンの演奏は義務付けられていたそうです。

ソナタは、基本的にはイタリアで生まれた教会ソナタの4楽章の定型の楽章配置をとっていますが、第2楽章にフーガをおくなど、バッハ独自の構成も見られます。例えば、ソナタ第1番 BWV1001は、第1楽章アダージョ、第2楽章フーガ、第3楽章シチリアーノ、第4楽章プレストとなっています。

組曲の要素が強いパルティータは、アルマンドやブーレ、クーラント、ジーグなどの舞曲を中心に、4〜7曲で構成されています。

バッハのヴァイオリン作品を代表する「シャコンヌ」は、パルティータ第2番第5曲です。

第1位 ギドン・クレーメル

第2位 イザベル・ファウスト

第3位 シギスハルト・クイケン

審査員の講評

クレーメル新盤が圧勝の連覇。リヒターやグールドの演奏同様に神格化され得る。しかし前回“クレーメル後”の演奏出現による順位変動を予測したのも正しかった。ファウストが2位。モダン/ピリオドを止揚、現代のスタンダードたり得る。そして今や古典盤の風格S.クイケン新盤が3位に入り、シェリングら往年の名盤は上位席を譲ることに。しかし精度と解釈を深めた現代の名演への評価はまだまだ上がる余地がある。ムローヴァ新盤は予想外の低位置、恐るべきクールネスのイブラギモヴァは圏外。前回3位だった寺神戸亮は順位を下げ、鮮烈だったポッジャーも圏外のまま。実は往年の巨匠も4人の録音に集中。名演の定義を積極的に再考することが必要だ(私も選者のひとりとして自戒を込めて)。(音楽評論家 矢澤孝樹)

ロストロポーヴィチがベルリンの壁前で披露したことで知られる名曲

無伴奏チェロ組曲BWV1007〜1012

多くのバッハの器楽曲と同様に、この作品も作曲年代は明らかになっていません。無伴奏チェロ組曲は、長らく練習曲とみなされていましたが、パブロ・カザルス(1876〜1973年)によって世に広められ、今ではチェロを代表する名曲となりました。

第6番までのすべてが、各6曲の舞曲から成る組曲となっており、第1番と第2番はアルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット、ジーグで構成され、第3番から第6番は4曲目にメヌエットではなくブーレかガヴォットが用いられています。

第1位 パブロ・カザルス

第1位 アンナー・ビルスマ

第3位 鈴木秀美

鈴木秀美(2004年)
ハルモニア・ムンディ

第3位 ピエール・フルニエ

審査員の講評

長年神格化されてきたカザルス盤はまだ役目を解放してもらえないが、ビルスマ(註:オランダ出身のバロック・チェロの名手)新盤がついに同点1位。最近出版された『バッハ・古楽・チェロ』における鮮やかな分析を読み、新旧の録音を聴き直すとこの音楽家の自由で柔軟な精神が再度実感される。圏外だが旧盤も再評価が必要。3位に“ビルスマ以降”の名盤である鈴木秀美新盤が入ったのも注目。同点3位は根強くフルニエ(註:「チェロの貴公子」と評されるフランスのチェリスト)、フォーマットを変えての再発の多さも強みか。W.クイケン、クニャーゼフ、ケラスなど、再発機会が増えれば必ず評価は上がるはず。しかし同じ数の10人の選者なのに前回に比べノミネート盤が減ってしまっている(13→9)。そのときの旬の新盤が消えた? それもあるが、ロストロポーヴィチやマイスキーが圏外に去ったのも驚き。ここにも時代の変化。(音楽評論家 矢澤孝樹)

あのトッカータ ニ短調を含むオルガンの名曲を一挙に楽しもう

オルガン作品集

バッハのオルガン作品は250曲におよびますが、オルガン作品集では、代表曲のトッカータフーガをはじめ、パイプオルガンの魅力を存分に味わうことができます。バッハはオルガンの名手で、楽器の構造などにも精通していたと言われています。

さまざまな音色を楽しむことができるパイプオルガンの仕組みについては、「4段の鍵盤に5898本のパイプ!! サントリーホールに鎮座する“楽器の王様”パイプオルガン」を見てみてください。

第1位 ヘルムート・ヴァルヒャ

第1位 トン・コープマン

第3位 グスタフ・レオンハルト

審査員の講評

劇的変動である。長年定番だったヴァルヒャ(註:1907年旧西ドイツ生まれのオルガニスト、チェンバロ奏者)盤に、コープマンの全集がついに並び立った。コープマン(註:オランダのオルガン奏者、チェンバロ奏者、指揮者)は選集も1枚選ばれているが、これはそれ以前のノヴァリス(註:スイスのレーベル)での選集ではなく全集録音の一部なので、実質的にはコープマン初の首位である。レオンハルト盤がレーベル統合によって票が集積され3位に浮上した(それによる正当な評価は喜ばしい)ので、同様の判断が適用されるべきかと思うが……。さらにヴァルヒャとともに牙城を築いたリヒターが同点4位に陥落、より選出者の多いフォクルール(註:ベルギーのオルガニスト)盤が演奏のバランスのよさ、楽器や曲目の充実により現代の定盤の位置を伺う。前週よりも奏者の個性を重視し近年の秀演を選ぶ安田和信のチョイスは興味深い。椎名雄一郎、吉田恵(圏外)ら日本人演奏家の力演も見逃せない。(音楽評論家 矢澤孝樹)

CMでもおなじみ! 不眠症に悩む伯爵のために作曲された名曲

ゴルトベルク変奏曲BWV988

1742年に《クラヴィーア練習曲集》第4部として出版された《ゴルトベルク変奏曲》は、その名の通り、ヨハン・テオフィルス・ゴルトベルク(1727〜56年)のために作曲されました。ゴルトベルクはクラヴィーア奏者で、ドレスデン駐在のロシア大使ヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク伯爵に仕えていました。不眠症に悩んでいた伯爵は、バッハに「眠れない夜を慰めてくれるようなクラヴィーア曲を作曲してほしい」と依頼し、ゴルトベルクが伯爵のために演奏したといわれています。

この作品には、ほかにも面白いエピソードがあります。最後を飾る第30変奏には、「キャベツとかぶ」という歌が引用されています。詳しくはバッハの名作《ゴルトベルク変奏曲》に潜む歌「キャベツとかぶ」をご覧ください。

第1位 グレン・グールド(88年)

第2位 アンドレアス・シュタイアー

第3位 グレン・グールド(55年)

審査員の講評

グールドの代名詞になったこの曲、1位コメントにも書いた通り初録音と遺作の円環の呪縛から逃れることは難しい。私もまたそのひとり。その後、名のある鍵盤奏者が、他のバッハ作品を脇に置いてことごとくこの作品を録音するという恐るべき磁場をグールドは創ったのだ。ところが、優れた録音が無数あるにもかかわらず、皆、ランキングの流沙の中に吸い込まれてしまう。しかし、グールドの2枚で全得票の50%を占める中、円環の間に挟まれる第2位がついにレオンハルト新盤からシュタイアー(註:ドイツのフォルテピアノ奏者、チェンバロ奏者)へと交替した。ハス(ドイツのチェンバロ製作者)のチェンバロの能力を使いきった、新時代の名盤だ。最近ではピアノではシュ・シャオメイの新盤、チェンバロならエスファハニに注目したい。グールド縛りを忘れるなら清水靖晃&サキソフォネッツ盤もある!(音楽評論家 矢澤孝樹)

華やかで人気のあるチェンバロ独奏曲

イタリア協奏曲BWV971

1735年に出版された《クラヴィーア練習曲集》第2部に収められています。ピアノチェンバロ、どちらの演奏も親しまれている作品です。

出版当初はバッハ自身によって《イタリア趣味による協奏曲(Concerto nach italienischen Gusto)》と呼ばれていたそうです。協奏曲という名前ですが、この作品は独奏曲。バッハがイタリアの協奏曲のあり方を1台のチェンバロ(2段鍵盤付き)だけで示そうとしたため、この名が付けられました。

第1位 グレン・グールド

第2位 グスタフ・レオンハルト

第3位 アンドレアス・シュタイアー

審査員の講評

今回のバッハのクラヴィーア曲ランキングは“グールドに始まりグールドに終わる”状態だが、前回の「500」以来の登場となるこの曲、当時の1位は2位と倍以上の大差でブレンデル! 2位グールド、3位ドレフュス。当時12枚ランク・インだが今回は18枚に増え、前回から残ったのは5枚の身。レオンハルトが2位に上昇。今回のレオンハルトの得票全体を見ると、遅すぎたがやっと評価が追いついた感あり。上位5枚以外は単独票だが、3位のシュタイアー始めアラール、エガー、武久源造などやはりチェンバロ勢が躍動的に新たな地平を拓いてきた印象。那須田務氏が挙げるロンドー(註:フランス生まれのチェンバロの若き名手)、私はライナー執筆ゆえ投票しなかったが最新の注目盤。最近聴きたいのは前回、故・佐々木節夫氏が挙げていたグルダ(オーストリアのクラシック/ジャズピアニスト)のクラヴィコード録音!(音楽評論家 矢澤孝樹)

バッハの三大宗教曲!

続いて、バッハの三大宗教曲として挙げられることの多い《ミサ曲ロ短調》、《マタイ受難曲》、《ヨハネ受難曲》の3作品をご紹介します。

2020年9月18日発売の「音楽の友」10月号の特集は「三大宗教曲」! さらに詳しく知りたい方は、ぜひあわせてご覧ください。

ミサ曲ロ短調BWV232

《ミサ曲ロ短調》は、最晩年に作曲された、いわばバッハの教会音楽家としての集大成と言える作品です。「ミサ」(キリエとグロリアからなる)、「ニケア信経」(クレド)、「サンクトゥス」、「オサンナ、ベネディクトゥス、アニュス・デイ、ドナ・ノビス・パチェム(われらに平和を与えたまえ)」の4部からなります。

第1位 リヒター指揮/ミュンヘン・バッハ管弦楽団

第2位 鈴木雅明指揮/バッハ・コレギウム・ジャパン

第3位 レオンハルト指揮/ラ・プティット・バンド

レオンハルト指揮、ラ・プティット・バンド、オランダ・コレギウム・ムジクム・バッハ合唱団(1985年)
RCA
審査員の講評

4大宗教曲のうちリヒターが牙城を守る2曲のひとつだが、前回に比べると2位との差はだいぶ縮まった。その2位にはついにレオンハルト盤を抜いて鈴木雅明盤が浮上。私も聴き直し、細部と全体のバランスがすばらしい現代のスタンダードだと実感した。ところで他の声楽曲がリヒターは別にして古楽団体が大勢を占めるようになったなかで、この曲はモダンの、それも交響管弦楽指揮者の録音がかなりランク・インしているのが面白い。クレンペラー、ジュリーニ、カラヤン、ケーゲル、ショルティ、マゼールである! レチタティーヴォの多い他の作品と比べ継続的にドラマを創りやすいのだろうか。さて私が1位に推すのは独唱と合唱の合奏協奏曲的扱いが新鮮なルクス盤。OVPP(註:One Voice per Part、1パートにつき1名の意)などを止揚した新世代の《ロ短調ミサ》だ。(音楽評論家 矢澤孝樹)

マタイ受難曲BWV232

1725年の5月末にライプツィヒの聖トーマス教会のカントール(楽長)に就任すると、バッハは教会暦のほとんどすべての祝日と日曜日の礼拝で、教会カンタータを演奏する職務を負います。教会カンタータについては、教会暦に合わせて紹介する連載「おはようバッハ」でぜひ聴いてみてください。

クリスマスとイースターの前後には、カンタータの演奏はお休みになりました。そして、イースター2日前の聖金曜日には、午後の礼拝で、オーケストラ伴奏付きのオラトリオ風受難曲の演奏が義務付けられ、《マタイ受難曲》と《ヨハネ受難曲》はこのために作曲されたのです。

マタイによる福音書第26章1節から第27章66節までに基づき、演奏時間は約3時間にわたる大作。1829年、メンデルスゾーン指揮による再演は、バッハ再評価に大きく貢献しました。

第1位 リヒター指揮/ミュンヘン・バッハ管弦楽団

第2位 アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

第3位 ガーディナー指揮/イギリス・バロック管弦楽団

審査員の講評

予想通りリヒター旧盤が今回も1位だが、前回までの“リヒター讃仰”状態ではなく、アーノンクール新盤が5点差の2位、1点差で3位ガーディナー、2点差で4位レオンハルトと、古楽団体の古典盤との差は縮まった。リヒター盤の集中力には圧倒されるが、それを“精神性”のひと言で普遍化せず、“1950年代末期という時代を反映した孤高の名演”として早く相対化するべきだったのだ。あるいは2〜4位それぞれの演奏が、それぞれの形で代替のきかない“精神性”を備えていると評するべきだろう。近年で注目したいのは、前代未聞の読みで音響の組み立てを根底から見直した壮大なヤーコブス(ベルギーの指揮者、カウンターテナー歌手)とOVPP(註:One Voice per Part、1パートにつき1名の意)採用のクイケンとの鋭い対比。そして更新されたモダン演奏のシャイー。《マタイ》の風景は、まだまだ広がっている。(音楽評論家 矢澤孝樹)

ヨハネ受難曲BWV244

ヨハネによる福音書第18~19章に基づいた《ヨハネ受難曲》は、より抒情的な《マタイ受難曲》に対して、劇的であると言われています。その理由には福音書の性格の違いも関係しており、ヨハネによる福音書では、マタイによる福音書のような最後の晩餐やゲッセマネでの苦悩の場面はなく、いきなりイエス・キリスト逮捕の場面から始まります。

演奏時間は約2時間、全体は大きく2つに分かれていて、バッハの時代にはその間に説教が行なわれていました。

第1位 ガーディナー指揮/イギリス・バロック管弦楽団

第2位 リヒター指揮/ミュンヘン・バッハ管弦楽団

第3位 アーノンクール指揮/ウィーンコンチェントゥス・ムジクス

審査員の講評

近年はガーディナー(註:イギリスの指揮者)とリヒターが競り合うこの曲、今回はガーディナーが再逆転して2度目の栄冠。堀内修氏のコメントにあるように、曲に内在する演劇性がガーディナーたちによっていきいきと引き出されている。その2者に、方向性は異なるがリヒター盤に劣らず峻厳なアーノンクール新盤が肉薄する。クイケンはOVPPの新盤より旧録に評価が集まる。どうも新録があまり食い込めず、鈴木雅明は復活したもののフェルトホーフェンは少し点を下げた。しかし決して録音に恵まれていないわけではなく、近年では典礼を再現したバットとダニーディン・コンソート(註:スコットランドの古楽器アンサンブル)など、エディション的な関心と演奏の完成度で大いに注目される。少し前の録音だが、武久源造盤の原始宗教を思わせる秘儀的な雰囲気は忘れ難いものがあった。(音楽評論家 矢澤孝樹)

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